たまたま土地を譲渡した場合の消費税の課税売上割合について

たまたま土地を譲渡した場合の消費税の課税売上割合について原則課税の適用を受けている事業者において、たまたま土地の譲渡があった場合には、課税売上割合が通常の事業年度に比べて、著しく低下することが考えられます。

課税売上割合が95%未満となった場合は、個別対応方式あるいは一括比例配分方式により仕入に係る消費税を按分計算し、仕入税額控除を行うことになりますが、この場合、仕入れに係る消費税の一部が控除できないことになります。

すなわち、事業内容に変化がないにもかかわらず、土地の譲渡の影響により、消費税の負担だけが増加する結果となります。以下において、設例を用いて解説します。

設例1は、土地の譲渡がない場合(通常の場合)であり、設例2は、設例1の数字に土地の譲渡及び売却手数料、売却手数料に係る消費税を加えたものです。

【設例1】通常の事業年度(土地の譲渡なし)の場合
・当事業年度の経営状況
課税売上(税抜)240,000
課税売上に係る消費税 12,000
非課税売上10,000
課税仕入に係る支払対価(税込)189,000
うち、課税売上のみ対応(税込)(84,000)
うち、共通対応(税込)(105,000)
納付すべき消費税の計算

(1) 課税売上割合240,000÷(240,000+10,000)=0.96≧0.95
したがって、仕入に係る税額は全額控除となります。

(2) 消費税の計算・課税売上に係る消費税(240,000+12,000)×100/105=240,000
240,000×4%=9,600
・控除対象仕入税額189,000×4/105=7,200したがって、納付すべき消費税は、9,600−7,200=2,400 となります。

【設例2】通常の事業年度に、たまたま土地の譲渡があった場合
※設例1の数字に、土地の譲渡対価350,000、売却手数料10,000(税抜)+売却手数料にかかる消費税(5%)500が加わった場合の計算
・当事業年度の経営状況
課税売上(税抜) 240,000
課税売上に係る消費税 12,000
非課税売上 360,000
うち、土地の譲渡対価 (350,000)
課税仕入に係る支払対価(税込) 199,500
うち、課税売上のみ対応(税込) (84,000)
うち、共通対応(税込) (105,000)
うち、非課税売上のみ対応(税込) (10,500)

納付すべき消費税の計算
(1) 課税売上割合240,000÷(240,000+360,000)=0.4<0.95
したがって、仕入に係る税額は按分計算が必要となります。

(2) 個別対応方式による消費税の計算
・課税売上に係る消費税(240,000+12,000)×100/105=240,000
240,000×4%=9,600
・控除対象仕入税額84,000×4/105+105,000×4/105×0.4=4,800
したがって、個別対応方式による消費税は、9,600−4,800=4,800 となります。

(3) 一括比例配分方式による消費税の計算
・課税売上に係る消費税(240,000+12,000)×100/105=240,000
240,000×4%=9,600
・控除対象仕入税額(84,000+105,000+10,500)×4/105×0.4=3,040
したがって、一括比例配分による消費税は、9,600−3,040=6,560となります。

(4)有利選択個別対応方式による消費税4,800<一括比例配分方式による消費税6,560となるため、納付すべき消費税は、4,800となります。

【設例1】【設例2】の例では、土地の売却の影響により、納付額に2,400の差が生じています。

土地の譲渡に係る消費税額はその譲渡額に対し、一般的に少額であり、設例2の様に、たまたま土地の譲渡があった場合は、通常の事業年度と同様に、課税売上割合を使用すると、実態を反映しない場合があります。

このような場合の対策として、課税売上割合に準ずる割合の活用が考えられます。課税売上割合に準ずる割合とは、課税売上割合により仕入控除税額を計算するよりも、課税売上割合に準ずる割合によって計算するほうが合理的である場合に、課税売上割合に代えて仕入控除税額を計算する方法です。

一般的に、課税売上割合に準ずる割合の具体例としては、課税売上と非課税売上が事業部門で別れている場合の使用人の数、または従事日数の割合、物品の使用量や使用した金額、使用面積の割合等があげられます。上記の設例と同様に、土地の譲渡が単発のものであり、かつ、当該土地の譲渡がなかったとした場合で、事業の実態に変動がないと認められる場合には、次のa、bのいずれか少ない割合で計算することができます。

 a)当該土地の譲渡があった課税期間の前3年に含まれる課税期間の通算課税売上割合(消費税法施行令第53条第3項《通算課税売上割合の計算方法》に規定する計算方法により計算した割合をいう。)
 b)当該土地の譲渡があった課税期間の前課税期間の課税売上割合

なお、当該土地の譲渡がなかったとした場合に、事業の実態に変動がないと認められる場合とは、事業者の営業の実態に変動がなく、かつ、過去3年間で最も高い課税売上割合と最も低い課税売上割合の差が5%以内である場合です。以下において、課税売上割合に準ずる割合を用いた場合の消費税の計算方法を設例を用いて解説します。

なお、課税売上割合に準ずる割合は、個別対応方式により共通対応の税額を計算する場合に適用されるため、一括比例配分方式においては、この割合は使えないことになる。一括比例配分方式を選択した場合は、あくまで課税売上割合を用いなければならないことに留意する必要があります。

【設例3】通常の事業年度に、たまたま土地の譲渡があり、課税売上割合に準ずる割合を適用した場合
※数字は、設例2と同様です。
・当事業年度の経営状況
課税売上(税抜) 240,000
課税売上に係る消費税 12,000
非課税売上 360,000
うち、土地の譲渡対価 (350,000)
課税仕入に係る支払対価(税込) 199,500
うち、課税売上のみ対応(税込) (84,000)
うち、共通対応(税込)     (105,000)
うち、非課税売上のみ対応(税込) (10,500)
・前期以前過去3年間の課税売上割合
3年前 2年前 1年前
(前々々期) (前々期) (前期)
課税売上(税抜) 246,000 244,000 242,000
非課税売上 4,000 6,000 8,000
資産の譲渡等 250,000 250,000 250,000
課税売上割合 0.984 0.976 0.968

納付すべき消費税の計算
(1) 前期以前の各課税期間における課税売上割合の差
98.4%(最高)−96.8%(最低)=1.6%≦5%

(2) 当該土地の譲渡があった課税期間の前3年に含まれる課税期間の通算課税売上割合
(246,000+244,000+242,000)÷(250,000+250,000+250,000)=0.976

(3) 当該土地の譲渡があった課税期間の前課税期間の課税売上割合
0.968

(4) 課税売上割合に準ずる割合
2と3のいずれか少ない割合となります。
0.976>0.968
したがって、0.968となります。

(5) 課税売上割合に準ずる割合を用いた場合の個別対応方式による消費税の計算
・課税売上に係る消費税
(240,000+12,000)×100/105=240,000
240,000×4%=9,600
・控除対象仕入税額
84,000×4/105+105,000×4/105×0.968=7,072
したがって、課税売上割合に準ずる割合を用いた場合の個別対応方式による消費税は、9,600−7,072=2,528となります。

(6)一括比例配分方式による消費税の計算・課税売上に係る消費税
(240,000+12,000)×100/105=240,000
240,000×4%=9,600
・控除対象仕入税額(84,000+105,000+10,500)×4/105×0.4=3,040したがって、一括比例配分による消費税は、
9,600−3,040=6,560
となります。

(7) 有利選択
課税売上割合に準ずる割合を用いた場合の個別対応方式による消費税2,528<一括比例配分方式による消費税6,560 したがって、納付すべき消費税は2,528となります。

上記の設例のとおり、たまたま土地の譲渡があった場合に、課税売上割合が低下する際の救済策として、課税売上割合に準ずる割合の適用が有効となります。

ただし、これを適用するためには、納税地を所轄する税務署に「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を提出して、適用しようとする課税期間の末日まで(適用を受けようとする事業年度内)に税務署長の承認を受けておく必要がある。
また、この承認については、あくまでたまたま土地の譲渡があった場合を前提としているため、継続適用できる性質のものではありません。

したがって、当該課税期間において適用したときは、翌課税期間において適用廃止届出書を提出しなければならず、提出がない場合には、その承認の取消しが行われます。

なお、課税売上割合に準ずる割合は、あくまで個別対応方式による場合が前提であるため、前事業年度の申告で、2年間継続適用される一括比例配分方式を選択している場合は、当該事業年度も、一括比例配分方式により消費税の計算を行わなければならないことに注意する必要があります。

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